July 05, 2024

重要提案行為の範囲

先週のJPX金商法研究会では、京大のT先生の報告で、2024年金商法改正のうち大量保有報告制度についての改正が扱われた。といっても、まだ金商法の改正が成立しただけで、政令等の改正の内容は明らかでないので、研究会では、主に、改正の元になった「金融審議会公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ報告」(以下では「WG報告」という)の内容の紹介と検討が行われた(なので、改正に至らなかった実質株主の透明性の問題についてもいろいろと議論された)。私が気になったのは、以下に書くような重要提案行為等の範囲の明確化の問題(このあたりは全く勉強してこなかったところなので、私が考えていることには、かなりの間違いがあるのだろうけれど)。

大量保有報告制度というのは、金商法に定められているもので、株券等の大量保有者(株券等保有割合5%超)になった者に、そうなった日から5営業日以内に大量保有報告書の提出を義務付け、さらに、その後で株券等保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合に、 変更があった日から5営業日以内に変更報告書の提出を義務付ける制度だ(こうやって行われる報告が、一般報告とも呼ばれる)。大量保有者の存在と保有目的は対象会社の支配に影響を与え、また、大量保有者の売買状況はその株券等の需給関係に影響を与えることから、一般の投資者の投資判断にとって重要であると考えられ、そのような開示が要求される(黒沼悦郎『金融商品取引法〔第2版〕』(有斐閣、2020年)320頁)。

他方で、金融商品取引業者等(機関投資家)については、このように取引ごとに詳細な情報開示を求めることは事務負担が過大になるし(それらの者は事業活動で反復継続的に株券等の売買をしている)、機関投資家は発行者の事業を支配する目的で株券等を売買するわけではないことが通常なので、事前に届け出た月2回の基準日に大量保有報告書・変更報告書の提出義務を判断して、基準日から5営業日以内に報告書を提出すれば足りるとされる(これが、特例報告)。

ただ、特例報告の利用が許されるためには、(1)株券等保有割合が10%を超えないことと、(2)重要提案行為等を行うことを保有の目的としないことが必要とされる。保有割合が10%を超えれば一般投資家への情報開示の必要性が機関投資家の事務負担の軽減に勝ると考えられ、大量保有者が重要提案行為等を行うことを目的として株券等を保有するのであれば特例を認める基礎が失われるからだ(黒沼・前掲書327頁)。

重要提案行為等の定義は金商法施行令14条の8の2第1項に規定されていて、代表取締役の選定又は解職、役員の構成の重要な変更、配当に関する方針の重要な変更等々を、発行会社の株主総会または役員に提案する行為をいうものとされる。

今回の改正につながる議論では、このような重要提案行為等の範囲が広すぎて、また、明確ではなくて、そのことが、機関投資家によるエンゲージメント活動の妨げになるのではないかとされ、重要提案行為等の範囲の限定・明確化が必要ではないかといわれた。

これについて、WG報告は次のように述べる:

<引用開始>

そもそも重要提案行為は、当該行為の経営に対する影響力に着目し、そのような行為を目的としている場合には特例報告制度によらず一般報告制度により迅速な情報開示を求めるものであるところ、現行の重要提案行為の範囲は、専ら提案行為の内容に着目し、一定の内容の提案行為を目的とする場合に一般報告制度による迅速な情報開示を求めている。

この点、役員の指名や一定割合以上の議決権の取得などといった企業支配権等に直接関係する行為を目的とする場合については、当該行為それ自体が経営に対して大きな影響を及ぼすものであり、迅速な情報開示を求めるべきといえる。一方、配当方針・資本政策に関する変更などといった企業支配権等に直接関係しない事項の提案行為を目的とする場合については、単に提案行為を行うことのみによって直ちに経営に対して大きな影響が生じるものとは言い難い。

したがって、企業支配権等に直接関係する行為を目的とする場合については、広く重要提案行為に該当する規律としつつ、企業支配権等に直接関係しない提案行為を目的とする場合については、当該提案行為の態様について着目し、その採否を発行会社の経営陣に委ねないような態様による提案行為を行うことを目的とする場合に限り、重要提案行為に該当する規律とすることが適当である。

<引用終了>

つまり、(A)企業支配権等に直接関係する行為は広く重要提案行為等とする一方で、(B)企業支配権等に直接関係しない提案行為はその採否を発行会社の経営陣に委ねないような態様のもの(具体的には、株主提案による場合など)に限って重要提案行為等とする、という改正が提案されている。

(A)の「企業支配権等に直接関係する行為」の例として一定割合以上の議決権の取得が挙げられていることからすれば、(A)は、企業支配権等に直接関係する行為をそれ自体として(それを「提案」する場合に限らず)重要提案行為等とするような改正を行うという話のようだ。しかし、そのように捉える場合、WG報告に挙げられた例のうち「役員の指名」というのが何を指しているのかが、よく分からない。会社法上、株主に直接役員候補者を提出する権利が与えられているわけではなく、株主が役員を「指名」するためには、株主提案権を行使するなり、経営陣に対して「この人を役員にしてください」と言っていく必要がある。しかしそれは、役員の指名について「提案」をしていることにほかならないのではないか。

また、「一定割合以上の議決権の取得」を重要提案行為等とすることに、どういう意味があるのだろうか。そのような改正が行われれば、たとえば、A会社の株式の5%超10%以下を保有して特例報告をしている機関投資家が、一定割合以上の議決権の取得を新たに保有目的とした場合に、特例報告ができなくなる。機関投資家は、そのような保有目的の変更が生じてから5営業日以内に、一般報告による変更報告書を提出しなければならない(松尾直彦『金融商品取引法〔第7版〕』(2023年)349頁)。しかし、実際に一定割合以上の議決権を取得する前に、そのような追加取得が現在A会社の株式を保有していることの目的になったからといって、それだけで一般報告による変更報告書を提出する機関投資家がどれだけいるのだろうか。結局は、実際に一定割合以上の議決権を実際に取得した直後に、「保有目的が変わってすぐに議決権を取得しました」といって、一般報告による変更報告書を提出することになるのではないか。現在でも、機関投資家は株券等保有割合が10%を超えれば(かつ、株券等保有割合の1%以上の増加などの変更報告書の提出事由に該当すれば)、5営業日以内に一般報告による変更報告書を提出しなければならない。一定割合というのが5%以上に設定されるのであれば、そのような現在の状態と、大きな変化はないようにも思われる。

さらに、(B)の企業支配権等に直接関係しない事項(配当方針・資本政策に関する変更など)の提案行為について、株主提案等によるのでなければ重要提案行為等に該当しないという改正は、適切な改正なのだろうか。たとえば、A会社の株式の7%を保有する機関投資家が、配当方針の変更について株主提案をするという場合と、そのような変更について単に役員に働きかけるという場合とで、A会社の支配への影響が違うと捉えられるのは、なぜなのだろうか。配当方針・資本政策に関する変更が企業支配権等に直接関係しないというのであれば、単純に、それを提案する行為を重要提案行為等の定義から外せばよいだけなのではないかとも思われる。

assam_uva at 13:12|Permalink││研究 

June 11, 2024

会社に対する委任状の送付と「反対する旨」の通知

最決令和5・10・26民集77巻7号1860頁(以下では「令和5年最決」という)は、次のように述べる。

 「会社法785条1項、2項1号イは、吸収合併等をするための株主総会において議決権を行使することができる株主が反対株主として株式買取請求をするためには、上記株主総会に先立って当該株主が反対通知をすることを要する旨規定している。その趣旨は、消滅株式会社等に対し、吸収合併契約等の承認に係る議案に反対する株主の議決権の個数や株式買取請求がされる株式数の見込みを認識させ、当該議案を可決させるための対策を講じたり、当該議案の撤回を検討したりする機会を与えるところにあると解される。そして、本件のように、株主が上記株主総会に先立って吸収合併等に反対する旨の議決権の代理行使を第三者に委任することを内容とする委任状を消滅株式会社等に送付した場合であっても、当該委任状が作成・送付された経緯やその記載内容等の事情を勘案して、吸収合併等に反対する旨の当該株主の意思が消滅株式会社等に対して表明されているということができるときには、消滅株式会社等において、上記見込みを認識するとともに、上記機会が与えられているといってよいから、上記委任状を消滅株式会社等に送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。
 これを本件についてみると、本件委任状は、スジャータ社が、抗告人に対し、宛先を自社とする本件委任状用紙を送付して議決権の代理行使を勧誘し、抗告人が、これに応じて、本件委任状用紙の各欄に記載をするなどして作成し、スジャータ社に対して返送したものである。そうすると、抗告人が本件賛否欄に記載したところは、代理人となるべき者に対して議決権の代理行使の内容を指示するだけのものではなく、上記勧誘をしてきたスジャータ社に対する応答でもあったということができ、本件委任状の送付は、スジャータ社に向けて本件吸収合併についての抗告人の意思を通知するものでもあったというべきである。そして、本件賛否欄には「否」に〇印が付けられていたのであるから、本件吸収合併に反対する旨の抗告人の意思が本件委任状に表明されていたことは明らかである……。
 以上からすると、本件委任状の送付は、本件吸収合併に反対する旨の抗告人の意思をスジャータ社に対して表明するものということができる。
 したがって、抗告人がスジャータ社に対して本件委任状を送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。」

このように、令和5年最決は、同事案で株主が会社に委任状用紙を送付したことが、会社法785条2項1号イにいう「反対する旨を当該消滅株式会社等に対し通知」したことにあたるとした。令和5年最決の理由付けや結論は説得的なものだと思うのだが、私が気になったのは、これと同様の事案が、特に上場会社で実際にどれだけ生じる可能性があるかということだ。

非公開会社の株主総会で、定足数の確保(たとえば、令和5年最決で問題になった吸収合併の承認の場合、決議要件が特別決議なので、定足数の引き下げには限度がある。会社法309条2項12号)等のために会社が委任状勧誘を行う場合には、委任状用紙に賛否の欄が記載され、かつ、「否」と記入された場合には、令和5年最決の事案でもそうだったように、そのとおり反対の議決権行使が代理人(同事案ではスジャータ社の代表取締役)によって行われるようだ。

これに対して、上場会社の株主総会で、(特に株主提案が行われた場合に)会社が委任状勧誘をする際には、次のようなやり方をするのが通常だろう。
(1)委任状勧誘と書面投票を併用
(2)委任状勧誘では、会社提案への賛成の勧誘が行われ、賛否欄に「賛」と記入すべき旨、賛否欄に記載がない場合には会社提案に賛成の意思表示があったものと取り扱う旨が説明される
(3)代理人欄を空欄として返送すべき旨or代理人は会社が指定すべき旨が説明される
(4)会社提案に反対の旨の委任状は取り扱わない旨(+会社提案に反対の場合には議決権行使書に「否」と記入して返送すべき旨)が説明される
(なお、(4)のような取扱いも適法。東京高決令和元・6・21金法2129号78頁)

そのような場合に、株主はどう行動するだろうか。

会社提案に反対の株主の多くは、議決権行使書に「否」と記入して返送するだろう。その場合、議決権行使書の返送は反対通知と評価され((森本滋編『会社法コンメンタール(18)』(商事法務、2010年)98頁[柳明昌])、また、議決権行使書どおりに反対の旨の議決権行使が行われるため、その株主は反対株主の要件を充たすことになる。

これに対して、株主があえて賛否欄に「否」と記入した委任状用紙を返送し、かつ、議決権行使書は白紙で返送すればどうなるだろうか(なお、この場合に委任状は取り扱わず、議決権行使書が白紙で返送されたことから会社提案に賛成の議決権行使と取り扱うことには問題がある。前掲東京高決定令和元・6・21参照)。会社はその委任状を取り扱う義務を負わず、議決権行使もされないのではないだろうか。そうすると、株主は、総会で反対の旨の議決権行使をしていないということからしても、反対株主の要件(会社法785条2項1号イ)を充たさないことになりそうだ。

assam_uva at 11:25|Permalink││研究 

May 15, 2024

「企業買収における行動指針」で不当ではないかと思う点

先月の日本取引所グループ金融商品取引法研究会では、昨年8月に公表された「企業買収における行動指針―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて―」が取り上げられた。同指針については、細かいところだが、不当ではないかと思う点があり、研究会でもその旨を発言してみた。今日、研究会議事録が上がってきて、自分の発言部分を読んだのだが、やはりそうだという意見に変わりはない。

それがどの部分かというと、同指針の「4.3 株主の意思決定を歪める行為の防止」で、買収者が「議決権行使や委任状の勧誘を行う際に、金品・財物の交付を行うこと」が望ましくない行為だとされるところだ。

会社法では、会社または子会社の計算による利益供与は禁止されるが(会社法120条1項)、そのほかの者の計算による利益の供与は禁止されていない。日本の会社法は、議決権売買を一般的に禁止するわけではないのだ。もちろん、そういった行為が行われた場合に、事後的に決議の効力が否定されることはありうる。しかしそれは、決議方法が著しく不公正であったと評価されることがあるというだけの話で、そのような行為が法令違反と評価されるわけではない。

そもそも、買収者が委任状の勧誘を行う際に金品・財物の行為を行うことが、指針が言うように一律に防止されるべき行為なのかということには、賛否両論があるはずだろう。指針のやり方は、様々な見解があり得るような会社法のルールの解釈について、勝手に公権的な解釈を決めるようなものだ。

もちろん、対象会社の経営者からすれば、対象会社の計算で行う金品・財物の交付が利益供与として会社法によって禁止されているのに、買収者の方が同じことをやっても規制が及ばないということには不満があるということは、理解できないではない。ただ、そういった不満は、会社法ルールの正式な改正という形で解消されるべきであって、指針の策定という形で裏口から会社法ルールを改めるようなやり方は、望ましくないのではないか思う。

assam_uva at 11:19|Permalink││研究 

March 21, 2024

『映画大好きポンポさん』と研究

先週土曜日に京大商法研究会で判例研究(最判令和2・12・22民集74巻9号2277頁)の報告をして、記憶が薄れないうちにと、商事法務投稿用の原稿を作った。報告の時から文章の形で資料を提出しているので、元の文章に研究会の時にもらったコメント等を参考に必要な修正を加えながら、規定字数(8000字)まで落とすというのが、毎回この時にする作業だ。

*ちなみに、私が大学院生として初めて研究会に参加した頃は、研究会の時には簡単なレジュメのみを配布する先生も多く(龍田先生など)、全く資料を配布せずに手元の原稿を読み上げる先生もいらっしゃった(神崎先生)。当時から師匠(森本先生)は文章形式の資料を配られていたと思う。その後、いつの頃からか、文章形式の資料を配る報告者の方が圧倒的多数派になった。

研究会での報告の資料の段階で1万字程度のものだった(それでも結構話を切り詰めた)のをさらに8000字に落とすのはなかなか大変だったが、自分が言いたいことを中心に文章を削りまくって何とか字数に収めて事務局に原稿を送った。この作業をやりながら思い出したのが、劇場アニメ『映画大好きポンポさん』。映画を作る過程での編集作業の重要性に1つのスポットを当てた作品で、「ひととおり書いた文章を規定字数まで削る」という作業をするときの参考になるアニメ(かもしれないもの)だ。

assam_uva at 12:46|Permalink││雑感その他 

January 22, 2024

招集株主の善管注意義務?

先週土曜日の京大商法研究会の判例研究1件目は、東京高決令和2・11・2金判1607号38頁、京大のS先生の御報告だった。

この決定の事案は、少数株主(以下では「招集株主」という)が招集した株主総会(会社法297条4項)について、会社の監査役が株主総会開催禁止仮処分命令の申立てをしたというもの。監査役は、この場合に会社法385条(監査役による取締役の行為の差止め)が類推適用されることを前提に、その差止請求権を被保全権利として、仮処分命令の申立てをしたというわけだ。差止事由としていくつかのことが主張されているが、主に問題になったのが、招集株主が議決権を行使した株主に対してクオカードを贈与すると表明したことが、決議方法の法令違反・著しい不公正になるかということだ。

研究会で議論が盛り上がり、また、私も気になったのが、同決定の原決定(さいたま地決令和2・10・29金判1607号45頁〔参考収録〕)が、次のように述べた点。

「少数株主が裁判所の株主総会招集許可を受けている場合,招集株主は,単なる株主としての地位にとどまらず,当該株主総会における決議が法831条1項1号所定の取消原因に該当する瑕疵を帯びることのないように株主総会を開催すべき善管注意義務を負うと解されるところ,それに違反し,又は違反するおそれがあるときは,監査役は,当該株主総会の開催について,法385条の類推適用により,同条に定める差止請求権を有すると解することが相当である。」

このように、さいたま地裁は、招集株主が善管注意義務を負うとしたわけだが、フロアからは、本当にそのように考えてよいのかといった声も上がり、私もそこは同意見だった。

報告者や一部の同決定評釈は、招集株主が著しく不公正な総会運営を行う可能性が高いような場合に差止めを認めるためには、招集株主が善管注意義務を負うとする必要があり(そう考えれば、会社法385条にいう「法令」には善管注意義務を定める規定も含まれるというのが一般的な解釈であるから、差止めが可能になる)、したがって、招集株主は善管注意義務を負うと考えるべきだとする。

しかし、私は、そのような「こういう結論が欲しいから、こういう解釈(法的構成)を採ろう」という論理に、どうもなじめないのだ。そのように、欲しい結論が先にあって、そのための解釈を考えればよいという解釈論のやり方は、現在の会社法の学界ではむしろ主流なのだろうけど。

また、招集株主が善管注意義務を負うという捉え方をせず、その結果、招集株主が著しく不公正な総会運営を行う可能性が高いような場合にも差止めが認められないということになったとして、それが本当に結論として妥当でないのかといえば、実はそうではないのではないかとも私は思っている。というのは、(1)本当に招集株主が著しく不公正な総会運営を行えば、その後で取消しの訴えを起こせばよいし、(2)招集株主が著しく不公正な総会運営を行いそうで(もちろん、それが事前に分かるとは限らないけれど)、それを事前に防ぎたいのだったら、そもそも、招集請求を受けて会社側が自ら総会を招集すれば、それでよいからだ。

assam_uva at 23:29|Permalink││研究