November 11, 2025
サステナビリティ・デューディリジェンスは会社法か
少し前の話になるが、10月のJPX金商法研究会では、EU企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(Directive (EU) 2024/1760 of the European Parliament and of the Council of 13 June 2024 on corporate sustainability due diligence and amending Directive (EU) 2019/1937 and Regulation (EU) 2023/2859 OJ L, 2024/1760, 5.7.2024)について扱われた(報告は京大のS先生)。
サステナビリティー・デューディリジェンスというのは、私が理解するかぎりで大雑把にいえば、国際的に活動する企業に、自らが行う国際的な事業活動の取引関係のつながり全般にわたって、国際人権保障や環境保護への配慮が行われているか(そのような観点から問題のある行為が行われていないか)を確認し、問題があれば必要な措置を執ることを義務付ける試みだ。イギリスやドイツではそのような義務を企業に負わせる法律が制定されており、EUでもそのようなサステナビリティー・デューディリジェンスについて加盟国の国内法を調整するための指令が定められている(それが上記の指令)。
研究会でのS先生のご報告は興味深く、普段勉強していないことをいろいろと学ぶことができたのだが、このサステナビリティー・デューディリジェンスについて、私は、常々、一つ疑問を抱いている。それは、「サステナビリティー・デューディリジェンスについて定める法ルールの内容の研究は、会社法学者の仕事なのか」というものだ。この疑問は、「サステナビリティー・デューディリジェンスについて定める法ルールは、実質的意義の会社法なのか」というふうに言い換えることもできるだろう。
もちろん指令の内容についてもいくつか質問をしたのだが、研究会の最後の方では、せっかくの機会なので上記のようなことについてS先生はどう考えているのかという質問をしてみた(質問の表現自体はそこまであからさまなものにはしなかったが)。
これに対するS先生の返答は、私の理解するところでは、(a)サステナビリティー・デューディリジェンスが法で定められた以上、企業はそれを遵守しなければならず、その遵守を確保するための体制を法令遵守体制の一環として整備する必要もあるのであり、そうだとすれば、サステナビリティー・デューディリジェンスについて定める法ルールの内容を研究することも、会社法学者の仕事といえる、といった感じのものだった。また、司会をしていた同志社のK先生からは、(b)企業の社会的責任に関する研究が会社法学者の仕事であるのと同様に考えられるのではないかとも言われた。
しかし、(a)も(b)も、私にとってはあまり満足のいく答えではなかった。
まず(b)なのだが、たしかに企業の社会的責任というものが会社法学者によって議論されることもある。しかし、そこでの議論は、企業の社会的責任に配慮することを取締役に義務付けることの可否であったり、そのような社会的責任への配慮の義務を制定法に定めることの可否であったりするのだけれど、企業の社会的責任の実質的な内容が何か(企業には社会的な要請からどのような行動が求められるのか)ということ自体は、会社法学者が研究するものではないのではないか。それはまさに社会が決めるものだし、社会が企業に何を求めているのかということを論じることは、会社法学者ではなく経営学者の仕事だろう。
また、(a)もそれと同様の意味で満足のいかない答えだ。たしかに会社法では法令遵守体制について議論はされるが、遵守すべき法令の実質的な内容がどうあるべきかといったことについては会社法としては議論はされない。
その他にありうる答えとしては、たとえば、(c)株主と株主以外の利害関係者との間の利害対立の調整はまさに会社法の役割の1つであって、サステナビリティー・デューディリジェンスについて定める法ルールの内容の研究は、その点で会社法の対象領域に含まれるという説明もあるかもしれない。
しかし、(c)も、私には満足のいかない答えだ。なぜなら、会社法の目的があくまでそのような利害関係者間の利害の調整であるのに対して、サステナビリティー・デューディリジェンスについて定める法ルールは、そのような利害の調整を目的とするのではなく、国際人権の保障そのものであったり、環境を良くすることそのものを目的とするのであり、言ってみれば、株主以外の利害関係者の利益だけを考えた法ルールのように思えるからだ。
そういうわけで、私は今なお、サステナビリティー・デューディリジェンスについて定める法ルールの内容の研究は会社法学者の仕事ではないのではないかという疑問を抱き続けている。
サステナビリティー・デューディリジェンスというのは、私が理解するかぎりで大雑把にいえば、国際的に活動する企業に、自らが行う国際的な事業活動の取引関係のつながり全般にわたって、国際人権保障や環境保護への配慮が行われているか(そのような観点から問題のある行為が行われていないか)を確認し、問題があれば必要な措置を執ることを義務付ける試みだ。イギリスやドイツではそのような義務を企業に負わせる法律が制定されており、EUでもそのようなサステナビリティー・デューディリジェンスについて加盟国の国内法を調整するための指令が定められている(それが上記の指令)。
研究会でのS先生のご報告は興味深く、普段勉強していないことをいろいろと学ぶことができたのだが、このサステナビリティー・デューディリジェンスについて、私は、常々、一つ疑問を抱いている。それは、「サステナビリティー・デューディリジェンスについて定める法ルールの内容の研究は、会社法学者の仕事なのか」というものだ。この疑問は、「サステナビリティー・デューディリジェンスについて定める法ルールは、実質的意義の会社法なのか」というふうに言い換えることもできるだろう。
もちろん指令の内容についてもいくつか質問をしたのだが、研究会の最後の方では、せっかくの機会なので上記のようなことについてS先生はどう考えているのかという質問をしてみた(質問の表現自体はそこまであからさまなものにはしなかったが)。
これに対するS先生の返答は、私の理解するところでは、(a)サステナビリティー・デューディリジェンスが法で定められた以上、企業はそれを遵守しなければならず、その遵守を確保するための体制を法令遵守体制の一環として整備する必要もあるのであり、そうだとすれば、サステナビリティー・デューディリジェンスについて定める法ルールの内容を研究することも、会社法学者の仕事といえる、といった感じのものだった。また、司会をしていた同志社のK先生からは、(b)企業の社会的責任に関する研究が会社法学者の仕事であるのと同様に考えられるのではないかとも言われた。
しかし、(a)も(b)も、私にとってはあまり満足のいく答えではなかった。
まず(b)なのだが、たしかに企業の社会的責任というものが会社法学者によって議論されることもある。しかし、そこでの議論は、企業の社会的責任に配慮することを取締役に義務付けることの可否であったり、そのような社会的責任への配慮の義務を制定法に定めることの可否であったりするのだけれど、企業の社会的責任の実質的な内容が何か(企業には社会的な要請からどのような行動が求められるのか)ということ自体は、会社法学者が研究するものではないのではないか。それはまさに社会が決めるものだし、社会が企業に何を求めているのかということを論じることは、会社法学者ではなく経営学者の仕事だろう。
また、(a)もそれと同様の意味で満足のいかない答えだ。たしかに会社法では法令遵守体制について議論はされるが、遵守すべき法令の実質的な内容がどうあるべきかといったことについては会社法としては議論はされない。
その他にありうる答えとしては、たとえば、(c)株主と株主以外の利害関係者との間の利害対立の調整はまさに会社法の役割の1つであって、サステナビリティー・デューディリジェンスについて定める法ルールの内容の研究は、その点で会社法の対象領域に含まれるという説明もあるかもしれない。
しかし、(c)も、私には満足のいかない答えだ。なぜなら、会社法の目的があくまでそのような利害関係者間の利害の調整であるのに対して、サステナビリティー・デューディリジェンスについて定める法ルールは、そのような利害の調整を目的とするのではなく、国際人権の保障そのものであったり、環境を良くすることそのものを目的とするのであり、言ってみれば、株主以外の利害関係者の利益だけを考えた法ルールのように思えるからだ。
そういうわけで、私は今なお、サステナビリティー・デューディリジェンスについて定める法ルールの内容の研究は会社法学者の仕事ではないのではないかという疑問を抱き続けている。
September 17, 2025
『ケースで探索・会社法』の修正箇所
April 18, 2025
会社法研究者養成の現状?
*この記事は私の予想以上に読まれているようです。趣旨を明確にするために修正・補足をしました。
商事法務2387号(2025年)54頁に、「会社法研究者養成の現状と課題」という匿名コラムが掲載されている。このコラムの、会社法研究者養成のために各大学で行われている工夫等に関する記述には、特に異存もない。しかし、このコラムに描かれる「会社法研究者養成の現状」には、そのイメージの正確性に疑問を感じざるを得ない。
このコラムの「会社法研究者養成の現状」に関する記述は、次のようなものである:
(1)法科大学院制度の創設以降、実定法の研究者養成は法科大学院を経て博士後期課程に進み(あるいは後期課程に進まずに)助教等のポストに就くルートが一般的となった。
(2)前記(1)のルートを経て研究者となった者は、研究・教育の面で活躍してはいるが、その数は十分とはいえない。
(3)会社法研究者の養成に関して注目すべきこととして、いったん弁護士など実務家として社会に出た後、大学に戻り研究者となるという例が多数ある。
(4)前記(3)のルートをたどった会社法研究者には、短期間のうちに重厚かつ問題意識が明確なモノグラフィーを完成させた例が多いという印象を持つ。研究者となってからの研究成果も目覚ましい。
しかし、このような「会社法研究者養成の現状」の記述は、主に東大・京大出身者のみを念頭に置いたもので、会社法研究者養成の現状のごく一部のみを描いているにすぎない。
たとえば、商事法務のコラムでは、私の勤務校(同志社)を含む相当数の大学が、ロースクール発足の時に意識的に実定法学についても法学研究科の修士課程(博士前期課程)を残置し、修士課程(博士前期課程)・博士課程(博士後期課程)というルートで多くの研究者を輩出しているということに、一言も触れられていない。私の勤務校の場合、ロースクールの発足後に、私は3人、また、同僚のK先生は3人の弟子を、そのようなルートで会社法研究者として育てた。
このような自分の経験だけでは説得力も乏しいかもしれないので、ごく粗いものだが、次のようなデータを示す。
(1)会社法研究者の多くは、プロの研究者として巣立った後、比較的早い段階で、日本私法学会の大会で個別報告というお披露目をする。
(2)そこで、2024年の日本私法学会大会から遡って10回分(2020年はコロナのために開催されなかったので、その年を除いて、2014年まで)について、日本私法学会のウェブ・サイトに掲載された大会の記録から、個別報告をした研究者のうち、研究テーマが会社法・金商法(金商法は会社法と関連も深く、多くの研究者は両方を研究するので)である者をピックアップした。
(3)それらの者について、researchmapなどで経歴を確認した。
(4)そのような調査の結果は、次のとおりだ。
(a)総数=38人
(b)このうちロースクール出身であることが分かる者(また、ロースクール出身ではないが、学部在学中に司法試験に合格している者)は、7人
(c)法学研究科出身(修士(法学))の者は、31人
(d)ここでいう「法学研究科」のほとんどは、(ロースクール発足時にいったん実定法学について修士課程を廃止したところではなく)勤務校のようにロースクール発足時に修士課程を残置したところ
つまり、少なくとも会社法研究者についていえば、今でも、「法科大学院を経て博士後期課程に進み(あるいは後期課程に進まずに)助教等のポストに就くルート」は、一般的ではない。特にロースクール発足の前後には、「これからはロースクール出身者が研究者になる」ということが盛んに語られたが、会社法研究者についていえば、それは理念の話ではあっても現実の話ではない(また、「ロースクール出身者が研究者になるルートの方が一般的になるのが望ましい」という考え方は、理念の話としても適切とはいえないと思う)。「会社法研究者養成の現状」を語るのであれば、ロースクール発足時にも実定法学について修士課程を廃止せず修士課程・博士課程というルートで多くの研究者を輩出している大学が相当数ある(それは私の勤務校だけではない)ことが、もっと重視されるべきである。
【注】(a)は38人としているが、実のところ、研究者として巣立ってかなりの年数が経ってから日本私法学会の個別報告をする人もいる(パッと見て数人はそういう人がいます)。ただ、そういう人を個別に除いていくとかえって間違えが出たりするかもしれないので、すべてここに含めている。仮にそういう人が15人いるとして、それを除いたとしても、前記の(c)が16人になるだけなので、「『法科大学院を経て博士後期課程に進み(あるいは後期課程に進まずに)助教等のポストに就くルート』は、一般的ではない」ということに変わりはない。
商事法務2387号(2025年)54頁に、「会社法研究者養成の現状と課題」という匿名コラムが掲載されている。このコラムの、会社法研究者養成のために各大学で行われている工夫等に関する記述には、特に異存もない。しかし、このコラムに描かれる「会社法研究者養成の現状」には、そのイメージの正確性に疑問を感じざるを得ない。
このコラムの「会社法研究者養成の現状」に関する記述は、次のようなものである:
(1)法科大学院制度の創設以降、実定法の研究者養成は法科大学院を経て博士後期課程に進み(あるいは後期課程に進まずに)助教等のポストに就くルートが一般的となった。
(2)前記(1)のルートを経て研究者となった者は、研究・教育の面で活躍してはいるが、その数は十分とはいえない。
(3)会社法研究者の養成に関して注目すべきこととして、いったん弁護士など実務家として社会に出た後、大学に戻り研究者となるという例が多数ある。
(4)前記(3)のルートをたどった会社法研究者には、短期間のうちに重厚かつ問題意識が明確なモノグラフィーを完成させた例が多いという印象を持つ。研究者となってからの研究成果も目覚ましい。
しかし、このような「会社法研究者養成の現状」の記述は、主に東大・京大出身者のみを念頭に置いたもので、会社法研究者養成の現状のごく一部のみを描いているにすぎない。
たとえば、商事法務のコラムでは、私の勤務校(同志社)を含む相当数の大学が、ロースクール発足の時に意識的に実定法学についても法学研究科の修士課程(博士前期課程)を残置し、修士課程(博士前期課程)・博士課程(博士後期課程)というルートで多くの研究者を輩出しているということに、一言も触れられていない。私の勤務校の場合、ロースクールの発足後に、私は3人、また、同僚のK先生は3人の弟子を、そのようなルートで会社法研究者として育てた。
このような自分の経験だけでは説得力も乏しいかもしれないので、ごく粗いものだが、次のようなデータを示す。
(1)会社法研究者の多くは、プロの研究者として巣立った後、比較的早い段階で、日本私法学会の大会で個別報告というお披露目をする。
(2)そこで、2024年の日本私法学会大会から遡って10回分(2020年はコロナのために開催されなかったので、その年を除いて、2014年まで)について、日本私法学会のウェブ・サイトに掲載された大会の記録から、個別報告をした研究者のうち、研究テーマが会社法・金商法(金商法は会社法と関連も深く、多くの研究者は両方を研究するので)である者をピックアップした。
(3)それらの者について、researchmapなどで経歴を確認した。
(4)そのような調査の結果は、次のとおりだ。
(a)総数=38人
(b)このうちロースクール出身であることが分かる者(また、ロースクール出身ではないが、学部在学中に司法試験に合格している者)は、7人
(c)法学研究科出身(修士(法学))の者は、31人
(d)ここでいう「法学研究科」のほとんどは、(ロースクール発足時にいったん実定法学について修士課程を廃止したところではなく)勤務校のようにロースクール発足時に修士課程を残置したところ
つまり、少なくとも会社法研究者についていえば、今でも、「法科大学院を経て博士後期課程に進み(あるいは後期課程に進まずに)助教等のポストに就くルート」は、一般的ではない。特にロースクール発足の前後には、「これからはロースクール出身者が研究者になる」ということが盛んに語られたが、会社法研究者についていえば、それは理念の話ではあっても現実の話ではない(また、「ロースクール出身者が研究者になるルートの方が一般的になるのが望ましい」という考え方は、理念の話としても適切とはいえないと思う)。「会社法研究者養成の現状」を語るのであれば、ロースクール発足時にも実定法学について修士課程を廃止せず修士課程・博士課程というルートで多くの研究者を輩出している大学が相当数ある(それは私の勤務校だけではない)ことが、もっと重視されるべきである。
【注】(a)は38人としているが、実のところ、研究者として巣立ってかなりの年数が経ってから日本私法学会の個別報告をする人もいる(パッと見て数人はそういう人がいます)。ただ、そういう人を個別に除いていくとかえって間違えが出たりするかもしれないので、すべてここに含めている。仮にそういう人が15人いるとして、それを除いたとしても、前記の(c)が16人になるだけなので、「『法科大学院を経て博士後期課程に進み(あるいは後期課程に進まずに)助教等のポストに就くルート』は、一般的ではない」ということに変わりはない。
April 01, 2025
新年度
今年度もごくたまに更新します。どうぞよろしくお願い申し上げます。
近況:
・『会社法《Legal Quest》〔第6版〕』が3月下旬に発売されました
・「株式会社の解散の訴え〔上〕―会社法833条1項1号にもとづく解散請求に関する解釈論」商事法務2386号(2025年)4頁
・「株式会社の解散の訴え〔中〕―会社法833条1項1号にもとづく解散請求に関する解釈論」商事法務2387号(2025年)掲載予定
・「株式会社の解散の訴え〔下〕―会社法833条1項1号にもとづく解散請求に関する解釈論」商事法務2388号(2025年)掲載予定

近況:
・『会社法《Legal Quest》〔第6版〕』が3月下旬に発売されました
・「株式会社の解散の訴え〔上〕―会社法833条1項1号にもとづく解散請求に関する解釈論」商事法務2386号(2025年)4頁
・「株式会社の解散の訴え〔中〕―会社法833条1項1号にもとづく解散請求に関する解釈論」商事法務2387号(2025年)掲載予定
・「株式会社の解散の訴え〔下〕―会社法833条1項1号にもとづく解散請求に関する解釈論」商事法務2388号(2025年)掲載予定





