October 23, 2024
第三者による株主総会の攪乱の意味
東京地判令和3・11・25判タ1503号196頁をゼミで読んだ。同判決は、会社が、議決権行使の代理人資格をその会社の株主に限る定款規定にもとづいて、株主ではない弁護士による議決権の代理行使を拒んだことが、決議方法の法令違反(議決権の代理行使を保障する会社法310条1項の違反)にあたるとして、決議を取り消した。同判決は、次のように述べる。
「株式会社が定款をもって株主総会における議決権行使の代理人の資格を当該株式会社の株主に限る旨を定めた場合,その定款の定めは,株式会社の利益ひいては株主の共同の利益を保護する趣旨から,株主総会が株主以外の第三者により攪乱され株式会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されるおそれがあるようなときに,その定款の定めを理由に株主が当該第三者に議決権の代理行使をさせることを拒否することができることとする趣旨のものと解すべきである。そして,弁護士は,当事者その他関係人の依頼等により,一般の法律事務を行うことを職務とするところ(弁護士法3条1項),相当高度の法律的素養を有するものであり(弁護士法2条,4条,5条参照),その職務を執行するに当たり,委任契約から生ずる善管注意義務(民法644条)等を負うだけでなく,基本的人権を擁護し,社会正義を実現するとの使命に基づき(弁護士法1条1項),当事者の利益を保護し,弁護士の信用,品位等を保持すること等が求められるものである(同法2条,3条,25条等参照)。このことに照らすと,株主が弁護士に議決権を代理行使させた場合,当該弁護士が当該株主の意図に反する行動をすることは,通常想定されないものというべきである。」
このような判示からは、同判決が、「株主総会が株主以外の第三者により攪乱される」ということの意味を、「株主総会において代理人が株主の意図に反して行動すること」である(少なくとも、「株主総会が株主以外の第三者により攪乱される」ということの主な意味は「株主総会において代理人が株主の意図に反して行動すること」である)と捉えていることが読み取れる。
このような捉え方は、この問題についての著名な判例である最判昭和51・12・24民集30巻11号1076頁の次の判示に表れており(下線は私が引きました)、前記の東京地判令和3・11・25の判示は、これを基礎にするものだろう。
「原審が適法に確定したところによれば、被上告会社の定款には、『「株主又はその法定代理人は、他の出席株主を代理人としてその議決権を行使することができる。』旨の規定があり、被上告会社の本件株主総会において、株主である新潟県、直江津市、日本通運株式会社がその職員又は従業員に議決権を代理行使させたが、これらの使用人は、地方公共団体又は会社という組織のなかの一員として上司の命令に服する義務を負い、議決権の代理行使に当たつて法人である右株主の代表者の意図に反するような行動をすることはできないようになつているというのである。このように、株式会社が定款をもつて株主総会における議決権行使の代理人の資格を当該会社の株主に限る旨定めた場合において、当該会社の株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、原審認定のような事実関係の下においては、右定款の規定に反しないと解するのが相当である。けだし、右のような定款の規定は、株主総会が株主以外の第三者によつて攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨に出たものであり、株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、特段の事情のない限り、株主総会が攪乱され会社の利益が害されるおそれはなく、かえつて、右のような職員又は従業員による議決権の代理行使を認めないとすれば、株主としての意見を株主総会の決議の上に十分に反映することができず、事実上議決権行使の機会を奪うに等しく、不当な結果をもたらすからである。」
しかし、疑問に思うのは、「株主総会が株主以外の第三者により攪乱される」ということの意味を、「株主総会において代理人が株主の意図に反して行動すること」であると捉えるのは、株主総会の攪乱の意味の捉え方(何をもって株主総会の攪乱というか)として、本質からズレているのではないかということだ。
これについて、飯田秀総ほか『会社法判例の読み方』(有斐閣、2017年)147頁[松中学]は、ここでは「株主によるコントロールが効いているかどうか(株主であればしないような攪乱をするおそれがない)」が問題にされているのだと説明する。
たしかに、説明としては、そういう説明になるのだろう。ただ、「株主によるコントロール」や「株主であればしないような攪乱をするおそれ」を問題にすることに、どこまでの意味があるのかが、私にはよく分からないのだ。たとえば、株主が、もとから株主総会を攪乱するつもりで、しかし自分が出席するよりは、法律知識の豊富な弁護士に行ってもらう方が、効果的に株主総会を攪乱できると考えて、弁護士を議決権行使の代理人にするということも、ありえないではないだろう。この場合に、株主のよるコントロールは効いているのだから第三者によって株主総会が攪乱されることはない(あるいは、株主本人が出て行っても同様の攪乱をしたはずだ)ということになるのだろうか。
「株式会社が定款をもって株主総会における議決権行使の代理人の資格を当該株式会社の株主に限る旨を定めた場合,その定款の定めは,株式会社の利益ひいては株主の共同の利益を保護する趣旨から,株主総会が株主以外の第三者により攪乱され株式会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されるおそれがあるようなときに,その定款の定めを理由に株主が当該第三者に議決権の代理行使をさせることを拒否することができることとする趣旨のものと解すべきである。そして,弁護士は,当事者その他関係人の依頼等により,一般の法律事務を行うことを職務とするところ(弁護士法3条1項),相当高度の法律的素養を有するものであり(弁護士法2条,4条,5条参照),その職務を執行するに当たり,委任契約から生ずる善管注意義務(民法644条)等を負うだけでなく,基本的人権を擁護し,社会正義を実現するとの使命に基づき(弁護士法1条1項),当事者の利益を保護し,弁護士の信用,品位等を保持すること等が求められるものである(同法2条,3条,25条等参照)。このことに照らすと,株主が弁護士に議決権を代理行使させた場合,当該弁護士が当該株主の意図に反する行動をすることは,通常想定されないものというべきである。」
このような判示からは、同判決が、「株主総会が株主以外の第三者により攪乱される」ということの意味を、「株主総会において代理人が株主の意図に反して行動すること」である(少なくとも、「株主総会が株主以外の第三者により攪乱される」ということの主な意味は「株主総会において代理人が株主の意図に反して行動すること」である)と捉えていることが読み取れる。
このような捉え方は、この問題についての著名な判例である最判昭和51・12・24民集30巻11号1076頁の次の判示に表れており(下線は私が引きました)、前記の東京地判令和3・11・25の判示は、これを基礎にするものだろう。
「原審が適法に確定したところによれば、被上告会社の定款には、『「株主又はその法定代理人は、他の出席株主を代理人としてその議決権を行使することができる。』旨の規定があり、被上告会社の本件株主総会において、株主である新潟県、直江津市、日本通運株式会社がその職員又は従業員に議決権を代理行使させたが、これらの使用人は、地方公共団体又は会社という組織のなかの一員として上司の命令に服する義務を負い、議決権の代理行使に当たつて法人である右株主の代表者の意図に反するような行動をすることはできないようになつているというのである。このように、株式会社が定款をもつて株主総会における議決権行使の代理人の資格を当該会社の株主に限る旨定めた場合において、当該会社の株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、原審認定のような事実関係の下においては、右定款の規定に反しないと解するのが相当である。けだし、右のような定款の規定は、株主総会が株主以外の第三者によつて攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨に出たものであり、株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、特段の事情のない限り、株主総会が攪乱され会社の利益が害されるおそれはなく、かえつて、右のような職員又は従業員による議決権の代理行使を認めないとすれば、株主としての意見を株主総会の決議の上に十分に反映することができず、事実上議決権行使の機会を奪うに等しく、不当な結果をもたらすからである。」
しかし、疑問に思うのは、「株主総会が株主以外の第三者により攪乱される」ということの意味を、「株主総会において代理人が株主の意図に反して行動すること」であると捉えるのは、株主総会の攪乱の意味の捉え方(何をもって株主総会の攪乱というか)として、本質からズレているのではないかということだ。
これについて、飯田秀総ほか『会社法判例の読み方』(有斐閣、2017年)147頁[松中学]は、ここでは「株主によるコントロールが効いているかどうか(株主であればしないような攪乱をするおそれがない)」が問題にされているのだと説明する。
たしかに、説明としては、そういう説明になるのだろう。ただ、「株主によるコントロール」や「株主であればしないような攪乱をするおそれ」を問題にすることに、どこまでの意味があるのかが、私にはよく分からないのだ。たとえば、株主が、もとから株主総会を攪乱するつもりで、しかし自分が出席するよりは、法律知識の豊富な弁護士に行ってもらう方が、効果的に株主総会を攪乱できると考えて、弁護士を議決権行使の代理人にするということも、ありえないではないだろう。この場合に、株主のよるコントロールは効いているのだから第三者によって株主総会が攪乱されることはない(あるいは、株主本人が出て行っても同様の攪乱をしたはずだ)ということになるのだろうか。
September 24, 2024
監査法人の商人性・商法502条の解釈
土曜日の京大商法研究会で扱われた裁判例の1件目は、神戸大のY先生の御報告で、東京地判令和3・6・24金判1626号34頁(以下では「令和3年東京地判」という)だった。この裁判例では、(1)監査法人を退社した公認会計士への持分払戻額の計算方法と、(2)持分払戻請求権等に係る遅延損害金に適用される法定利率が民事か商事か(この事案では商事法定利率の規定が削除される前のルールが適用された)が問題になり、(2)の前提として、監査法人が商人かどうかが争点とされた(監査法人が商人であれば、出資を受ける行為は附属的商行為〔商法503条〕になるということが前提とされた)。
研究会で議論が盛り上がったのは、この監査法人が商人かどうかというところ。令和3年東京地判は、次のように述べる。
「監査法人は,他人の求めに応じて報酬を得て財務書類の監査又は証明をするとの業務を組織的に行うことを目的として,公認会計士法に基づいて設立された法人である(同法1条の3第3項,第2条1項)。監査法人が行う財務書類の監査に関する業務は,請負の性質を有すると解される監査報告書の提出を主要な目的の一つとしている。そうすると,監査法人の行う業務は営利を目的とするものであるというべきであるから,監査法人は商法上の商人に当たると解するのが相当である(商法502条5号,同法4条1項参照)。」
令和3年東京地判の判示のこの部分は、どのように法規定を適用しているのかが不明確な、ひどいものだと思う。ある主体が「商人」かどうかは、商法等の規定によって決まるのであり、商法では、自己の名をもって商行為をすることを業とする者(商法4条1項)か、店舗その他これに類似する設備によって物品を販売するすることを業とする者または鉱業を営む者(商法4条2項)でなければ商人とはされない。この判示のいうように「監査法人の行う業務は営利を目的とするものである」というだけで監査法人が「商人」だといえるわけではない(あるいは、このあたりの表現からすれば、Y先生が報告されていたような会社法5条の類推適用のようなものを考えているのかもしれないが、そういったことは判決文には表現されていない)。
また、この判示で「商法502条5号、同法4条1項参照」とされていることからすれば、裁判所は、監査法人が商法502条5号にいう「作業...の請負」を営業としてするのであり、したがって、自己の名をもって商行為をする者だといえると述べているのかもしれない。しかし、Y先生の御報告でも指摘されていたように、監査法人が監査報告を提出するのは、請負なのではなく、委任契約たる監査契約の履行行為としてやることだと捉えるのが素直であり、監査報告の提出業務だけを取り出してこれを「請負」だと捉えるのは、やはりおかしい。
ただ、このあたりの部分について、先行評釈が述べていることにも、おかしいなと思うところはある。先行評釈には、商法502条5号にいう「作業...の請負」というのは、伝統的な通説では不動産(+船舶)の工事の請負をいうのだとされており、監査報告の提出のようなものはそれには含まれておらず、その点から、監査法人の業務が商法502条5号に当たると解するのは難しいとするものがある。商法502条5号については、伝統的な通説と違って、もっと一般的になす債務に当たる行為を含めようとする見解も存在するが、この評釈は、そのように広く解したとしても、請負には当たらない現代的な営業の多くに商行為性を認めることはできないから、結局、解決策にはならないとする(清水真希子「判批」ジュリスト1570号(2022年)97頁)。
令和3年東京地判の事案では、このあたりをどう考えようが、上に述べたようにそもそも監査報告の提出を請負と捉えること自体に無理があるので、結局は同じなのだけれど、商法502条5号を柔軟に解釈すること自体は、否定されるべきではないだろう。商法502条5号だけでも(また、商法502条が列挙するその他の営業的商行為だけでも)、柔軟に解釈をすることでその事案について妥当な結論が得られるのなら、柔軟に解釈をすればよい。そのような解釈によって救えない部分が出てくるからといって、そのような解釈をとるべきではない理由にはならないはずだ。
そもそも、商法502条5号にいう「作業...の請負」が不動産(+船舶)の工事の請負をいうのだという伝統的な通説自体、根拠は薄いのではないかと思う。西原寛一や大隅健一郎の商行為法の体系書も確認してみたが、たしかにそのような解釈は記されているものの、詳細で説得的な根拠が記されているわけではない。西原寛一や大隅健一郎がその体系書を書いた時代には、「作業...の請負」といえば、そのようなものしか想像できなかったというだけの話で、そういった古い時代の、根拠も薄い解釈論を絶対視する必要はないだろう。
研究会で議論が盛り上がったのは、この監査法人が商人かどうかというところ。令和3年東京地判は、次のように述べる。
「監査法人は,他人の求めに応じて報酬を得て財務書類の監査又は証明をするとの業務を組織的に行うことを目的として,公認会計士法に基づいて設立された法人である(同法1条の3第3項,第2条1項)。監査法人が行う財務書類の監査に関する業務は,請負の性質を有すると解される監査報告書の提出を主要な目的の一つとしている。そうすると,監査法人の行う業務は営利を目的とするものであるというべきであるから,監査法人は商法上の商人に当たると解するのが相当である(商法502条5号,同法4条1項参照)。」
令和3年東京地判の判示のこの部分は、どのように法規定を適用しているのかが不明確な、ひどいものだと思う。ある主体が「商人」かどうかは、商法等の規定によって決まるのであり、商法では、自己の名をもって商行為をすることを業とする者(商法4条1項)か、店舗その他これに類似する設備によって物品を販売するすることを業とする者または鉱業を営む者(商法4条2項)でなければ商人とはされない。この判示のいうように「監査法人の行う業務は営利を目的とするものである」というだけで監査法人が「商人」だといえるわけではない(あるいは、このあたりの表現からすれば、Y先生が報告されていたような会社法5条の類推適用のようなものを考えているのかもしれないが、そういったことは判決文には表現されていない)。
また、この判示で「商法502条5号、同法4条1項参照」とされていることからすれば、裁判所は、監査法人が商法502条5号にいう「作業...の請負」を営業としてするのであり、したがって、自己の名をもって商行為をする者だといえると述べているのかもしれない。しかし、Y先生の御報告でも指摘されていたように、監査法人が監査報告を提出するのは、請負なのではなく、委任契約たる監査契約の履行行為としてやることだと捉えるのが素直であり、監査報告の提出業務だけを取り出してこれを「請負」だと捉えるのは、やはりおかしい。
ただ、このあたりの部分について、先行評釈が述べていることにも、おかしいなと思うところはある。先行評釈には、商法502条5号にいう「作業...の請負」というのは、伝統的な通説では不動産(+船舶)の工事の請負をいうのだとされており、監査報告の提出のようなものはそれには含まれておらず、その点から、監査法人の業務が商法502条5号に当たると解するのは難しいとするものがある。商法502条5号については、伝統的な通説と違って、もっと一般的になす債務に当たる行為を含めようとする見解も存在するが、この評釈は、そのように広く解したとしても、請負には当たらない現代的な営業の多くに商行為性を認めることはできないから、結局、解決策にはならないとする(清水真希子「判批」ジュリスト1570号(2022年)97頁)。
令和3年東京地判の事案では、このあたりをどう考えようが、上に述べたようにそもそも監査報告の提出を請負と捉えること自体に無理があるので、結局は同じなのだけれど、商法502条5号を柔軟に解釈すること自体は、否定されるべきではないだろう。商法502条5号だけでも(また、商法502条が列挙するその他の営業的商行為だけでも)、柔軟に解釈をすることでその事案について妥当な結論が得られるのなら、柔軟に解釈をすればよい。そのような解釈によって救えない部分が出てくるからといって、そのような解釈をとるべきではない理由にはならないはずだ。
そもそも、商法502条5号にいう「作業...の請負」が不動産(+船舶)の工事の請負をいうのだという伝統的な通説自体、根拠は薄いのではないかと思う。西原寛一や大隅健一郎の商行為法の体系書も確認してみたが、たしかにそのような解釈は記されているものの、詳細で説得的な根拠が記されているわけではない。西原寛一や大隅健一郎がその体系書を書いた時代には、「作業...の請負」といえば、そのようなものしか想像できなかったというだけの話で、そういった古い時代の、根拠も薄い解釈論を絶対視する必要はないだろう。
September 04, 2024
取締役権利義務者の法律関係
大阪高判令和4・3・24金判1668号39頁は、株式会社の解散の訴え(会社法833条1項)の事件であり、同項1号の解散事由がないとして請求を認めなかった原審判決(京都地判令和3・7・8金判1668号47頁<参考収録>)を維持した。この事件では、Y社の株式の半数ずつを有する株主の間で意見が対立して株主総会で役員の選任ができない(遅くとも平成24年9月以降は株主総会が開催されておらず、同年8月28日に選任された役員の任期の満了に伴う新たな役員は選任されていない)というデッドロックの状態になっており、対立する株主の片方(B:原告)がY社の解散を請求した。しかし、裁判所の認定によれば、そのY社の取締役権利義務者(会社法346条1項)は、原告に加えて、Bと対立する株主であるA、さらに、もう一人の合計3人で、その3人によって取締役会は開催されており、Aが代表取締役に選定されていて、Aによって業務の執行は行われていた。このことから、大阪高裁も京都地裁も、会社法833条1項1号の解散事由は認められないとして、解散を認めなかった。
これらの判決のように取締役権利義務者がおり通常の業務の執行は行われているということを会社法833条1項1号の解散事由を認めない根拠とすることには、大いに疑問があるのだけれど、ここでは、もう少し細かい問題について書こうと思う。
上に述べた大阪高判の事案では、ある時点から取締役の選任が全く行われていないので、直前に取締役であった者の全員が取締役権利義務者だということになる。裁判所の認定では、平成24年当時のY社の取締役はA・Bのほか、Aの妻であるCと、Dの4人だったが、遅くとも平成29年5月までにDが退任したとされる。
まず、このように取締役権利義務者に「退任」というものがあるのかということが、よく分からない。取締役権利義務者というのは、取締役が欠けた(法令所定の員数を欠くに至った)場合に、任期の満了または辞任によって退任した取締役は、新たな取締役が就任するまで、なお取締役としての権利義務を有するという制度で、そういった取締役権利義務者について、任意の退任というものがありうるのだろうか。取締役権利義務者というのは、自分でなろうとしてなるものではなく、本来は(任期の満了・辞任によって)取締役でなくなった者を、法的に取締役としての権利義務を有しつづけるものとしてしまう制度であって、そうやって取締役権利義務者とされた者が任意にそこから抜けられるのか、ということだ。Y社は取締役会設置会社で、取締役は3人以上いればよい(会社法331条5項)ことから、Dが退任しても取締役権利義務者はA・B・Cの3人だから大丈夫、なんてことになるのだろうか。
また、裁判所の認定では、もともとはBがY社の代表取締役であったのが、平成30年に開催されたY社の取締役会でBが解職され(判決文では解任といわれる。BはY社の設立以来、その時まで、代表取締役だったとされている)、Aが代表取締役に選定された(判決文では選任といわれる)ということになっている。
平成24年以降はY社では役員の選任がされていなかったことからすると(また、平成24年以降30年までの間にY社の取締役会でBが代表取締役に選定されたという認定はされていない)、Bは代表取締役権利義務者だったことになりそうだ。しかし、そのような代表取締役権利義務者の「解職」というものがありうるのかということが、上に述べたのと同様の理由から、よく分からない。取締役権利義務者の解任について、最判平成20・2・26民集62巻2号638頁は、取締役権利義務者が解任の訴え(会社法854条1項)の対象にはならないとしている。
もっとも、次の(a)に述べるように、Aが新たに正規の代表取締役として選定されたと捉えられるのであれば、Aが代表取締役に就任することでBは代表取締役権利義務者でなくなるので(会社法351条1項)、いずれにしてもBは代表取締役としての権利義務を有しないことになりそうだ。
正規の取締役がおらず取締役権利義務者しかいないという状況で、Aを代表取締役を選定することができるかも、考えてみるとよく分からない。(a)Aは正規の取締役ではなくて取締役権利義務者だが、そういった取締役権利義務者としての地位も、代表取締役の地位の前提としての取締役の地位だと考えるのであれば、Aはそれによって正規の代表取締役に選定されたことになるのだろう。
これに対して、(b)代表取締役の地位の前提としての「取締役」には取締役権利義務者は含まれないと考えるのであれば、Aを代表取締役に選定することはできないことになる。このように考える場合、Aを代表取締役に選定した取締役会決議は無効で、依然としてY社には代表取締役が欠けていることになるから、Bの解職が無効なのだとすれば、Bが代表取締役権利義務者だということになる。
これらの判決のように取締役権利義務者がおり通常の業務の執行は行われているということを会社法833条1項1号の解散事由を認めない根拠とすることには、大いに疑問があるのだけれど、ここでは、もう少し細かい問題について書こうと思う。
上に述べた大阪高判の事案では、ある時点から取締役の選任が全く行われていないので、直前に取締役であった者の全員が取締役権利義務者だということになる。裁判所の認定では、平成24年当時のY社の取締役はA・Bのほか、Aの妻であるCと、Dの4人だったが、遅くとも平成29年5月までにDが退任したとされる。
まず、このように取締役権利義務者に「退任」というものがあるのかということが、よく分からない。取締役権利義務者というのは、取締役が欠けた(法令所定の員数を欠くに至った)場合に、任期の満了または辞任によって退任した取締役は、新たな取締役が就任するまで、なお取締役としての権利義務を有するという制度で、そういった取締役権利義務者について、任意の退任というものがありうるのだろうか。取締役権利義務者というのは、自分でなろうとしてなるものではなく、本来は(任期の満了・辞任によって)取締役でなくなった者を、法的に取締役としての権利義務を有しつづけるものとしてしまう制度であって、そうやって取締役権利義務者とされた者が任意にそこから抜けられるのか、ということだ。Y社は取締役会設置会社で、取締役は3人以上いればよい(会社法331条5項)ことから、Dが退任しても取締役権利義務者はA・B・Cの3人だから大丈夫、なんてことになるのだろうか。
また、裁判所の認定では、もともとはBがY社の代表取締役であったのが、平成30年に開催されたY社の取締役会でBが解職され(判決文では解任といわれる。BはY社の設立以来、その時まで、代表取締役だったとされている)、Aが代表取締役に選定された(判決文では選任といわれる)ということになっている。
平成24年以降はY社では役員の選任がされていなかったことからすると(また、平成24年以降30年までの間にY社の取締役会でBが代表取締役に選定されたという認定はされていない)、Bは代表取締役権利義務者だったことになりそうだ。しかし、そのような代表取締役権利義務者の「解職」というものがありうるのかということが、上に述べたのと同様の理由から、よく分からない。取締役権利義務者の解任について、最判平成20・2・26民集62巻2号638頁は、取締役権利義務者が解任の訴え(会社法854条1項)の対象にはならないとしている。
もっとも、次の(a)に述べるように、Aが新たに正規の代表取締役として選定されたと捉えられるのであれば、Aが代表取締役に就任することでBは代表取締役権利義務者でなくなるので(会社法351条1項)、いずれにしてもBは代表取締役としての権利義務を有しないことになりそうだ。
正規の取締役がおらず取締役権利義務者しかいないという状況で、Aを代表取締役を選定することができるかも、考えてみるとよく分からない。(a)Aは正規の取締役ではなくて取締役権利義務者だが、そういった取締役権利義務者としての地位も、代表取締役の地位の前提としての取締役の地位だと考えるのであれば、Aはそれによって正規の代表取締役に選定されたことになるのだろう。
これに対して、(b)代表取締役の地位の前提としての「取締役」には取締役権利義務者は含まれないと考えるのであれば、Aを代表取締役に選定することはできないことになる。このように考える場合、Aを代表取締役に選定した取締役会決議は無効で、依然としてY社には代表取締役が欠けていることになるから、Bの解職が無効なのだとすれば、Bが代表取締役権利義務者だということになる。
July 05, 2024
重要提案行為の範囲
先週のJPX金商法研究会では、京大のT先生の報告で、2024年金商法改正のうち大量保有報告制度についての改正が扱われた。といっても、まだ金商法の改正が成立しただけで、政令等の改正の内容は明らかでないので、研究会では、主に、改正の元になった「金融審議会公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ報告」(以下では「WG報告」という)の内容の紹介と検討が行われた(なので、改正に至らなかった実質株主の透明性の問題についてもいろいろと議論された)。私が気になったのは、以下に書くような重要提案行為等の範囲の明確化の問題(このあたりは全く勉強してこなかったところなので、私が考えていることには、かなりの間違いがあるのだろうけれど)。
大量保有報告制度というのは、金商法に定められているもので、株券等の大量保有者(株券等保有割合5%超)になった者に、そうなった日から5営業日以内に大量保有報告書の提出を義務付け、さらに、その後で株券等保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合に、 変更があった日から5営業日以内に変更報告書の提出を義務付ける制度だ(こうやって行われる報告が、一般報告とも呼ばれる)。大量保有者の存在と保有目的は対象会社の支配に影響を与え、また、大量保有者の売買状況はその株券等の需給関係に影響を与えることから、一般の投資者の投資判断にとって重要であると考えられ、そのような開示が要求される(黒沼悦郎『金融商品取引法〔第2版〕』(有斐閣、2020年)320頁)。
他方で、金融商品取引業者等(機関投資家)については、このように取引ごとに詳細な情報開示を求めることは事務負担が過大になるし(それらの者は事業活動で反復継続的に株券等の売買をしている)、機関投資家は発行者の事業を支配する目的で株券等を売買するわけではないことが通常なので、事前に届け出た月2回の基準日に大量保有報告書・変更報告書の提出義務を判断して、基準日から5営業日以内に報告書を提出すれば足りるとされる(これが、特例報告)。
ただ、特例報告の利用が許されるためには、(1)株券等保有割合が10%を超えないことと、(2)重要提案行為等を行うことを保有の目的としないことが必要とされる。保有割合が10%を超えれば一般投資家への情報開示の必要性が機関投資家の事務負担の軽減に勝ると考えられ、大量保有者が重要提案行為等を行うことを目的として株券等を保有するのであれば特例を認める基礎が失われるからだ(黒沼・前掲書327頁)。
重要提案行為等の定義は金商法施行令14条の8の2第1項に規定されていて、代表取締役の選定又は解職、役員の構成の重要な変更、配当に関する方針の重要な変更等々を、発行会社の株主総会または役員に提案する行為をいうものとされる。
今回の改正につながる議論では、このような重要提案行為等の範囲が広すぎて、また、明確ではなくて、そのことが、機関投資家によるエンゲージメント活動の妨げになるのではないかとされ、重要提案行為等の範囲の限定・明確化が必要ではないかといわれた。
これについて、WG報告は次のように述べる:
<引用開始>
そもそも重要提案行為は、当該行為の経営に対する影響力に着目し、そのような行為を目的としている場合には特例報告制度によらず一般報告制度により迅速な情報開示を求めるものであるところ、現行の重要提案行為の範囲は、専ら提案行為の内容に着目し、一定の内容の提案行為を目的とする場合に一般報告制度による迅速な情報開示を求めている。
この点、役員の指名や一定割合以上の議決権の取得などといった企業支配権等に直接関係する行為を目的とする場合については、当該行為それ自体が経営に対して大きな影響を及ぼすものであり、迅速な情報開示を求めるべきといえる。一方、配当方針・資本政策に関する変更などといった企業支配権等に直接関係しない事項の提案行為を目的とする場合については、単に提案行為を行うことのみによって直ちに経営に対して大きな影響が生じるものとは言い難い。
したがって、企業支配権等に直接関係する行為を目的とする場合については、広く重要提案行為に該当する規律としつつ、企業支配権等に直接関係しない提案行為を目的とする場合については、当該提案行為の態様について着目し、その採否を発行会社の経営陣に委ねないような態様による提案行為を行うことを目的とする場合に限り、重要提案行為に該当する規律とすることが適当である。
<引用終了>
つまり、(A)企業支配権等に直接関係する行為は広く重要提案行為等とする一方で、(B)企業支配権等に直接関係しない提案行為はその採否を発行会社の経営陣に委ねないような態様のもの(具体的には、株主提案による場合など)に限って重要提案行為等とする、という改正が提案されている。
(A)の「企業支配権等に直接関係する行為」の例として一定割合以上の議決権の取得が挙げられていることからすれば、(A)は、企業支配権等に直接関係する行為をそれ自体として(それを「提案」する場合に限らず)重要提案行為等とするような改正を行うという話のようだ。しかし、そのように捉える場合、WG報告に挙げられた例のうち「役員の指名」というのが何を指しているのかが、よく分からない。会社法上、株主に直接役員候補者を提出する権利が与えられているわけではなく、株主が役員を「指名」するためには、株主提案権を行使するなり、経営陣に対して「この人を役員にしてください」と言っていく必要がある。しかしそれは、役員の指名について「提案」をしていることにほかならないのではないか。
また、「一定割合以上の議決権の取得」を重要提案行為等とすることに、どういう意味があるのだろうか。そのような改正が行われれば、たとえば、A会社の株式の5%超10%以下を保有して特例報告をしている機関投資家が、一定割合以上の議決権の取得を新たに保有目的とした場合に、特例報告ができなくなる。機関投資家は、そのような保有目的の変更が生じてから5営業日以内に、一般報告による変更報告書を提出しなければならない(松尾直彦『金融商品取引法〔第7版〕』(2023年)349頁)。しかし、実際に一定割合以上の議決権を取得する前に、そのような追加取得が現在A会社の株式を保有していることの目的になったからといって、それだけで一般報告による変更報告書を提出する機関投資家がどれだけいるのだろうか。結局は、実際に一定割合以上の議決権を実際に取得した直後に、「保有目的が変わってすぐに議決権を取得しました」といって、一般報告による変更報告書を提出することになるのではないか。現在でも、機関投資家は株券等保有割合が10%を超えれば(かつ、株券等保有割合の1%以上の増加などの変更報告書の提出事由に該当すれば)、5営業日以内に一般報告による変更報告書を提出しなければならない。一定割合というのが5%以上に設定されるのであれば、そのような現在の状態と、大きな変化はないようにも思われる。
さらに、(B)の企業支配権等に直接関係しない事項(配当方針・資本政策に関する変更など)の提案行為について、株主提案等によるのでなければ重要提案行為等に該当しないという改正は、適切な改正なのだろうか。たとえば、A会社の株式の7%を保有する機関投資家が、配当方針の変更について株主提案をするという場合と、そのような変更について単に役員に働きかけるという場合とで、A会社の支配への影響が違うと捉えられるのは、なぜなのだろうか。配当方針・資本政策に関する変更が企業支配権等に直接関係しないというのであれば、単純に、それを提案する行為を重要提案行為等の定義から外せばよいだけなのではないかとも思われる。
大量保有報告制度というのは、金商法に定められているもので、株券等の大量保有者(株券等保有割合5%超)になった者に、そうなった日から5営業日以内に大量保有報告書の提出を義務付け、さらに、その後で株券等保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合に、 変更があった日から5営業日以内に変更報告書の提出を義務付ける制度だ(こうやって行われる報告が、一般報告とも呼ばれる)。大量保有者の存在と保有目的は対象会社の支配に影響を与え、また、大量保有者の売買状況はその株券等の需給関係に影響を与えることから、一般の投資者の投資判断にとって重要であると考えられ、そのような開示が要求される(黒沼悦郎『金融商品取引法〔第2版〕』(有斐閣、2020年)320頁)。
他方で、金融商品取引業者等(機関投資家)については、このように取引ごとに詳細な情報開示を求めることは事務負担が過大になるし(それらの者は事業活動で反復継続的に株券等の売買をしている)、機関投資家は発行者の事業を支配する目的で株券等を売買するわけではないことが通常なので、事前に届け出た月2回の基準日に大量保有報告書・変更報告書の提出義務を判断して、基準日から5営業日以内に報告書を提出すれば足りるとされる(これが、特例報告)。
ただ、特例報告の利用が許されるためには、(1)株券等保有割合が10%を超えないことと、(2)重要提案行為等を行うことを保有の目的としないことが必要とされる。保有割合が10%を超えれば一般投資家への情報開示の必要性が機関投資家の事務負担の軽減に勝ると考えられ、大量保有者が重要提案行為等を行うことを目的として株券等を保有するのであれば特例を認める基礎が失われるからだ(黒沼・前掲書327頁)。
重要提案行為等の定義は金商法施行令14条の8の2第1項に規定されていて、代表取締役の選定又は解職、役員の構成の重要な変更、配当に関する方針の重要な変更等々を、発行会社の株主総会または役員に提案する行為をいうものとされる。
今回の改正につながる議論では、このような重要提案行為等の範囲が広すぎて、また、明確ではなくて、そのことが、機関投資家によるエンゲージメント活動の妨げになるのではないかとされ、重要提案行為等の範囲の限定・明確化が必要ではないかといわれた。
これについて、WG報告は次のように述べる:
<引用開始>
そもそも重要提案行為は、当該行為の経営に対する影響力に着目し、そのような行為を目的としている場合には特例報告制度によらず一般報告制度により迅速な情報開示を求めるものであるところ、現行の重要提案行為の範囲は、専ら提案行為の内容に着目し、一定の内容の提案行為を目的とする場合に一般報告制度による迅速な情報開示を求めている。
この点、役員の指名や一定割合以上の議決権の取得などといった企業支配権等に直接関係する行為を目的とする場合については、当該行為それ自体が経営に対して大きな影響を及ぼすものであり、迅速な情報開示を求めるべきといえる。一方、配当方針・資本政策に関する変更などといった企業支配権等に直接関係しない事項の提案行為を目的とする場合については、単に提案行為を行うことのみによって直ちに経営に対して大きな影響が生じるものとは言い難い。
したがって、企業支配権等に直接関係する行為を目的とする場合については、広く重要提案行為に該当する規律としつつ、企業支配権等に直接関係しない提案行為を目的とする場合については、当該提案行為の態様について着目し、その採否を発行会社の経営陣に委ねないような態様による提案行為を行うことを目的とする場合に限り、重要提案行為に該当する規律とすることが適当である。
<引用終了>
つまり、(A)企業支配権等に直接関係する行為は広く重要提案行為等とする一方で、(B)企業支配権等に直接関係しない提案行為はその採否を発行会社の経営陣に委ねないような態様のもの(具体的には、株主提案による場合など)に限って重要提案行為等とする、という改正が提案されている。
(A)の「企業支配権等に直接関係する行為」の例として一定割合以上の議決権の取得が挙げられていることからすれば、(A)は、企業支配権等に直接関係する行為をそれ自体として(それを「提案」する場合に限らず)重要提案行為等とするような改正を行うという話のようだ。しかし、そのように捉える場合、WG報告に挙げられた例のうち「役員の指名」というのが何を指しているのかが、よく分からない。会社法上、株主に直接役員候補者を提出する権利が与えられているわけではなく、株主が役員を「指名」するためには、株主提案権を行使するなり、経営陣に対して「この人を役員にしてください」と言っていく必要がある。しかしそれは、役員の指名について「提案」をしていることにほかならないのではないか。
また、「一定割合以上の議決権の取得」を重要提案行為等とすることに、どういう意味があるのだろうか。そのような改正が行われれば、たとえば、A会社の株式の5%超10%以下を保有して特例報告をしている機関投資家が、一定割合以上の議決権の取得を新たに保有目的とした場合に、特例報告ができなくなる。機関投資家は、そのような保有目的の変更が生じてから5営業日以内に、一般報告による変更報告書を提出しなければならない(松尾直彦『金融商品取引法〔第7版〕』(2023年)349頁)。しかし、実際に一定割合以上の議決権を取得する前に、そのような追加取得が現在A会社の株式を保有していることの目的になったからといって、それだけで一般報告による変更報告書を提出する機関投資家がどれだけいるのだろうか。結局は、実際に一定割合以上の議決権を実際に取得した直後に、「保有目的が変わってすぐに議決権を取得しました」といって、一般報告による変更報告書を提出することになるのではないか。現在でも、機関投資家は株券等保有割合が10%を超えれば(かつ、株券等保有割合の1%以上の増加などの変更報告書の提出事由に該当すれば)、5営業日以内に一般報告による変更報告書を提出しなければならない。一定割合というのが5%以上に設定されるのであれば、そのような現在の状態と、大きな変化はないようにも思われる。
さらに、(B)の企業支配権等に直接関係しない事項(配当方針・資本政策に関する変更など)の提案行為について、株主提案等によるのでなければ重要提案行為等に該当しないという改正は、適切な改正なのだろうか。たとえば、A会社の株式の7%を保有する機関投資家が、配当方針の変更について株主提案をするという場合と、そのような変更について単に役員に働きかけるという場合とで、A会社の支配への影響が違うと捉えられるのは、なぜなのだろうか。配当方針・資本政策に関する変更が企業支配権等に直接関係しないというのであれば、単純に、それを提案する行為を重要提案行為等の定義から外せばよいだけなのではないかとも思われる。
June 11, 2024
会社に対する委任状の送付と「反対する旨」の通知
最決令和5・10・26民集77巻7号1860頁(以下では「令和5年最決」という)は、次のように述べる。
「会社法785条1項、2項1号イは、吸収合併等をするための株主総会において議決権を行使することができる株主が反対株主として株式買取請求をするためには、上記株主総会に先立って当該株主が反対通知をすることを要する旨規定している。その趣旨は、消滅株式会社等に対し、吸収合併契約等の承認に係る議案に反対する株主の議決権の個数や株式買取請求がされる株式数の見込みを認識させ、当該議案を可決させるための対策を講じたり、当該議案の撤回を検討したりする機会を与えるところにあると解される。そして、本件のように、株主が上記株主総会に先立って吸収合併等に反対する旨の議決権の代理行使を第三者に委任することを内容とする委任状を消滅株式会社等に送付した場合であっても、当該委任状が作成・送付された経緯やその記載内容等の事情を勘案して、吸収合併等に反対する旨の当該株主の意思が消滅株式会社等に対して表明されているということができるときには、消滅株式会社等において、上記見込みを認識するとともに、上記機会が与えられているといってよいから、上記委任状を消滅株式会社等に送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。
これを本件についてみると、本件委任状は、スジャータ社が、抗告人に対し、宛先を自社とする本件委任状用紙を送付して議決権の代理行使を勧誘し、抗告人が、これに応じて、本件委任状用紙の各欄に記載をするなどして作成し、スジャータ社に対して返送したものである。そうすると、抗告人が本件賛否欄に記載したところは、代理人となるべき者に対して議決権の代理行使の内容を指示するだけのものではなく、上記勧誘をしてきたスジャータ社に対する応答でもあったということができ、本件委任状の送付は、スジャータ社に向けて本件吸収合併についての抗告人の意思を通知するものでもあったというべきである。そして、本件賛否欄には「否」に〇印が付けられていたのであるから、本件吸収合併に反対する旨の抗告人の意思が本件委任状に表明されていたことは明らかである……。
以上からすると、本件委任状の送付は、本件吸収合併に反対する旨の抗告人の意思をスジャータ社に対して表明するものということができる。
したがって、抗告人がスジャータ社に対して本件委任状を送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。」
このように、令和5年最決は、同事案で株主が会社に委任状用紙を送付したことが、会社法785条2項1号イにいう「反対する旨を当該消滅株式会社等に対し通知」したことにあたるとした。令和5年最決の理由付けや結論は説得的なものだと思うのだが、私が気になったのは、これと同様の事案が、特に上場会社で実際にどれだけ生じる可能性があるかということだ。
非公開会社の株主総会で、定足数の確保(たとえば、令和5年最決で問題になった吸収合併の承認の場合、決議要件が特別決議なので、定足数の引き下げには限度がある。会社法309条2項12号)等のために会社が委任状勧誘を行う場合には、委任状用紙に賛否の欄が記載され、かつ、「否」と記入された場合には、令和5年最決の事案でもそうだったように、そのとおり反対の議決権行使が代理人(同事案ではスジャータ社の代表取締役)によって行われるようだ。
これに対して、上場会社の株主総会で、(特に株主提案が行われた場合に)会社が委任状勧誘をする際には、次のようなやり方をするのが通常だろう。
(1)委任状勧誘と書面投票を併用
(2)委任状勧誘では、会社提案への賛成の勧誘が行われ、賛否欄に「賛」と記入すべき旨、賛否欄に記載がない場合には会社提案に賛成の意思表示があったものと取り扱う旨が説明される
(3)代理人欄を空欄として返送すべき旨or代理人は会社が指定すべき旨が説明される
(4)会社提案に反対の旨の委任状は取り扱わない旨(+会社提案に反対の場合には議決権行使書に「否」と記入して返送すべき旨)が説明される
(なお、(4)のような取扱いも適法。東京高決令和元・6・21金法2129号78頁)
そのような場合に、株主はどう行動するだろうか。
会社提案に反対の株主の多くは、議決権行使書に「否」と記入して返送するだろう。その場合、議決権行使書の返送は反対通知と評価され((森本滋編『会社法コンメンタール(18)』(商事法務、2010年)98頁[柳明昌])、また、議決権行使書どおりに反対の旨の議決権行使が行われるため、その株主は反対株主の要件を充たすことになる。
これに対して、株主があえて賛否欄に「否」と記入した委任状用紙を返送し、かつ、議決権行使書は白紙で返送すればどうなるだろうか(なお、この場合に委任状は取り扱わず、議決権行使書が白紙で返送されたことから会社提案に賛成の議決権行使と取り扱うことには問題がある。前掲東京高決定令和元・6・21参照)。会社はその委任状を取り扱う義務を負わず、議決権行使もされないのではないだろうか。そうすると、株主は、総会で反対の旨の議決権行使をしていないということからしても、反対株主の要件(会社法785条2項1号イ)を充たさないことになりそうだ。
「会社法785条1項、2項1号イは、吸収合併等をするための株主総会において議決権を行使することができる株主が反対株主として株式買取請求をするためには、上記株主総会に先立って当該株主が反対通知をすることを要する旨規定している。その趣旨は、消滅株式会社等に対し、吸収合併契約等の承認に係る議案に反対する株主の議決権の個数や株式買取請求がされる株式数の見込みを認識させ、当該議案を可決させるための対策を講じたり、当該議案の撤回を検討したりする機会を与えるところにあると解される。そして、本件のように、株主が上記株主総会に先立って吸収合併等に反対する旨の議決権の代理行使を第三者に委任することを内容とする委任状を消滅株式会社等に送付した場合であっても、当該委任状が作成・送付された経緯やその記載内容等の事情を勘案して、吸収合併等に反対する旨の当該株主の意思が消滅株式会社等に対して表明されているということができるときには、消滅株式会社等において、上記見込みを認識するとともに、上記機会が与えられているといってよいから、上記委任状を消滅株式会社等に送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。
これを本件についてみると、本件委任状は、スジャータ社が、抗告人に対し、宛先を自社とする本件委任状用紙を送付して議決権の代理行使を勧誘し、抗告人が、これに応じて、本件委任状用紙の各欄に記載をするなどして作成し、スジャータ社に対して返送したものである。そうすると、抗告人が本件賛否欄に記載したところは、代理人となるべき者に対して議決権の代理行使の内容を指示するだけのものではなく、上記勧誘をしてきたスジャータ社に対する応答でもあったということができ、本件委任状の送付は、スジャータ社に向けて本件吸収合併についての抗告人の意思を通知するものでもあったというべきである。そして、本件賛否欄には「否」に〇印が付けられていたのであるから、本件吸収合併に反対する旨の抗告人の意思が本件委任状に表明されていたことは明らかである……。
以上からすると、本件委任状の送付は、本件吸収合併に反対する旨の抗告人の意思をスジャータ社に対して表明するものということができる。
したがって、抗告人がスジャータ社に対して本件委任状を送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。」
このように、令和5年最決は、同事案で株主が会社に委任状用紙を送付したことが、会社法785条2項1号イにいう「反対する旨を当該消滅株式会社等に対し通知」したことにあたるとした。令和5年最決の理由付けや結論は説得的なものだと思うのだが、私が気になったのは、これと同様の事案が、特に上場会社で実際にどれだけ生じる可能性があるかということだ。
非公開会社の株主総会で、定足数の確保(たとえば、令和5年最決で問題になった吸収合併の承認の場合、決議要件が特別決議なので、定足数の引き下げには限度がある。会社法309条2項12号)等のために会社が委任状勧誘を行う場合には、委任状用紙に賛否の欄が記載され、かつ、「否」と記入された場合には、令和5年最決の事案でもそうだったように、そのとおり反対の議決権行使が代理人(同事案ではスジャータ社の代表取締役)によって行われるようだ。
これに対して、上場会社の株主総会で、(特に株主提案が行われた場合に)会社が委任状勧誘をする際には、次のようなやり方をするのが通常だろう。
(1)委任状勧誘と書面投票を併用
(2)委任状勧誘では、会社提案への賛成の勧誘が行われ、賛否欄に「賛」と記入すべき旨、賛否欄に記載がない場合には会社提案に賛成の意思表示があったものと取り扱う旨が説明される
(3)代理人欄を空欄として返送すべき旨or代理人は会社が指定すべき旨が説明される
(4)会社提案に反対の旨の委任状は取り扱わない旨(+会社提案に反対の場合には議決権行使書に「否」と記入して返送すべき旨)が説明される
(なお、(4)のような取扱いも適法。東京高決令和元・6・21金法2129号78頁)
そのような場合に、株主はどう行動するだろうか。
会社提案に反対の株主の多くは、議決権行使書に「否」と記入して返送するだろう。その場合、議決権行使書の返送は反対通知と評価され((森本滋編『会社法コンメンタール(18)』(商事法務、2010年)98頁[柳明昌])、また、議決権行使書どおりに反対の旨の議決権行使が行われるため、その株主は反対株主の要件を充たすことになる。
これに対して、株主があえて賛否欄に「否」と記入した委任状用紙を返送し、かつ、議決権行使書は白紙で返送すればどうなるだろうか(なお、この場合に委任状は取り扱わず、議決権行使書が白紙で返送されたことから会社提案に賛成の議決権行使と取り扱うことには問題がある。前掲東京高決定令和元・6・21参照)。会社はその委任状を取り扱う義務を負わず、議決権行使もされないのではないだろうか。そうすると、株主は、総会で反対の旨の議決権行使をしていないということからしても、反対株主の要件(会社法785条2項1号イ)を充たさないことになりそうだ。